これはくだんの「ホテルローヤル」の巻頭の物語です。
アイスホッケー選手だった貴史がけがの為引退して二年後、美幸が働くスーパーに採用され中学時代の同級生だとわかり恋に発展していく。
お互い三十三歳、美幸は恋愛に対して無駄な夢を見なくなった。とあるし貴史は貴史で怪我のせいでリンクを降りなければならなくなったことで「挫折、負け犬」という言葉が離れないでいる。
そんな貴史に美幸が懇願されたこととは、今彼が夢中になっているカメラの撮影で彼女のヌード写真のモデルになることであった。
カメラを手に入れてから貴史の笑顔は中学時代の輝きを取り戻している。
真剣さと新しい目標をみつけたという彼の頼みごとを断れずに要求通りにはいかなかったが一週間で無理やり3.5㌔をダイエットして「ホテルローヤル」に向う。
そのホテルはすでに廃墟になっている。
彼はその中の一室の誰かが使った後で皺だらけのシーツまくれあがったかけ布団の丸いベッドの埃が舞う中での彼女の撮影を始めた。
使用感が残っているのが彼の言ういい状態だった。
彼女は言われる通り色々なポーズをとりながら
「今どんなに言葉でさえ、男の言う挫折が別の物に姿を変えて再び日の目を見ることなどなさそう。貴史の言う<夢と希望>は、廃墟できらきらと光る埃にそっくり、いっとき舞い上がり、また元の場所へと降り積もる。」
(この描写がこの物語の中で私が一番気に入っているところだ)
途中、ふたりはその埃の舞う部屋で体を繋げ、また撮影にかかる。次々と過激なポーズを要求されるが「もう挫折したくないんだ」という決めぜりふに美幸は呑んでしまうのだった。
廃墟のイメージは男の中でどんなふうに美幸と繋がっているのだろう。お互いの空洞を埋めあったうえ、さらに大切にしてほしいというのは過ぎたる望みなのだろう。
美幸は往路と帰路の貴史の変化を敏感に感じている。
作品の最後の部分は微妙すぎて全文を紹介しなければいけなくなるが、二人の行く末は含みを持たせている。
男女のからみや撮影の描写もあるが生々しいエロティシズムはそれほど感じられないのは著者の力量だろうか。
◎読み終えて好きな男の気持ちを引き留めておくために女はどこまで妥協というか応えることができるのだろうかと考えさせられる作品でした。
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