2018年5月13日日曜日

桃子さんの墓参り

桃子さんはバスという手段もあるがあえて小半日かけて夫周造の墓参りに行く。弁当持ちで。
数日前からの脚の痛みも無くすこぶるつきの絶好調で出かける。
道中素の自分を取り戻し一番輝いていた頃の自分を思い出す。満ち足りた幸せ、周造と結婚した頃、子供二人を抱え懸命に生きていた頃どれもが懐かしく温かく桃子さん珠玉の頃に笑みがこぼれる。

だけど、違う、桃子さんを根底から変えた周造を亡くしてからの数年こそ自分が一番輝いていた頃ではなかったかと気付く。
つらく悲しかったあの時が一番色濃く色彩をなしている。
悲しみは悲しみとして思い返せばあの当時にすぐ戻れる。
周造の声が聞けなくなった辛さ。
眠れない日が続いてこの先何も見えなくなったある日不意に周造の声が寝ろ寝ろと聞こえた。
何処から聞こえるのか、わからないまま桃子さんは自分の住む世界とは別に夫の住む世界があるはずで、子供を育て、夫を見送りなすべき事をやり遂げた今は自由に生きていいのだと思うのだった。
自分だけがノウノウと生きている事の負い目も一年ごとに薄れていくのは仕方ないこと、もう許されていいのだ。家族のために生きてきた桃子さんを解放へと導く。気付くために費やされた時間が桃子さんの生きた時間だった。

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