いつになく残暑厳しい箱根路を歩いていた。
手持ちの竹筒にはもう一滴の水もなくへたりこんでいたところへ武家の妻女らしき人物がさしだしてくれた竹筒の水を貪るようにして飲み干す寸前のところで「すまぬ……加減するつもりでいたが」と言いつつようやく水を得て生き返った武一は礼を述べ立ちあがった。
今日の内に箱根を越えて、伊豆の韮山に到着せねばならない。
地図検索をしてみると今も韮山代官所跡がある。
又、箱根関所跡が再建されて当時のままに威厳のある大きな黒い門がある(写真で)。
関所から韮山までルート検索では30㌔ 程ある。しかも箱根道は箱根八里と歌にも歌われたほどの難所続きである。
ようやく関所に到着し、手形改めの番になった。大切に懐から出した袱紗の中身は預かった文と道中手形だが汗でびっしょりと濡れている事に気が付く。
役人が「むとういちのすけ、お役目につき、伊豆国韮山代官所へ罷り越し候。しかと相違ないか」と聞く。
「恐れながらむとうではなくたけとう。武藤一之介にござります」と言ったとたん手形を手にした番士ではなく隣の上の間から「……たけとう、だと?」
「わしが直々改める手形をこれへ」
役人たちは困り気味の表情でちらりと目くばせをする。嫌な予感が的中する。「何じゃ、これは!濡れておるではないか!」と叱責する武一は「申し訳ございませんそれがしの不行き届きでござります」と詫びても「墨が滲んでいる上に印も定かでない。これは吟味といたす」
長い間待たされた上「出直して参れ!」と居丈高に命じられ武一は悄然とうなだれた。
その引き返す道中は行きよりもずっと辛かった。
二度目の関越えの手続きは拍子抜けするほどすんなりと運ぶ。
先日世話になった足軽のえきちに会うため足軽詰所に立ち寄る。 饅頭の包みを渡すと衛吉は大層喜んだ。
帰りのまた寄る武一と呼んでくれと自己紹介をして別れるが・
この岡衛吉と出会えたことが後に大きな幸運となるのであった。
つづく
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