2020年3月12日木曜日

騎市の計らい

後日竹馬の友という表現が正しいかはわからないが、五歳の頃から同じ剣術の師匠に学んだ武一と騎市が小田原宿の外れの「勝手」(かって)という居酒屋で飲みながら騎市は先日の箱根関所での出来事を腹を抱えて笑っていた。

友の生れた騎山家は小田原藩主の家中の中でも十指に入る名家、一方武藤家は四人扶持であまりに開きがあり本来なら口さえ容易にきけぬ間柄ではあるが、二人の間には道場以来の固い絆があった。
あえて小田原宿の外れの馬方や人足達の集まる「勝手」があまり顔を知られたくない二人には都合が良かった。
思慮深い騎市と考えるより先に体が動く武一であるがお互いにそれを長所と捉えている。

突然瀬戸物の割れる音がした。衝立の向こうで例の関所で足留めををくらって挙げ句関所を通る事はならんとはねつけられ、婆様の死に目に逢えなんだ。と男のずぶとい声、手形が雨でぬれていたという理由だという。
二人は余りによく似た話なので事情を聞く事にした。
「おお、おぬしもか」と仲間を見つけたとばかり衝立を取り払って座を囲むことになった。
その男と連れの二人、武一達の五人である。
お互いに自己紹介をするこちらも向こうも道場さえ違えお互いが門下生であった。


つづく

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