2018年3月9日金曜日

桃子さんと柔毛突起

愛する夫の死を受け入れられない桃子さん。
一人ぼっちになった桃子さん。
言い忘れたが桃子さんの体内に無数の柔毛突起のようなものがありそれらの一つ一つが思い思いに言葉を発し桃子さんに問いかけ、慰め、叱咤激励をする。体内に無数の桃子さんがいるらしい。
ややこしい話だが桃子さん本体があり体内の柔毛突起が発する言葉は云わば彼女の心の声みたいなものである。
独り暮らしなのに無数の桃子さんが同居していて口々に東北弁で各々発言する。
淋しさを紛らす自己防衛みたいなものかと私は勝手に思っているのだが、その賑やかなこと。
 ついでに桃子さんについてもう少し語ろう。
桃子さんには二人の子供、庄司と直美がいる。
庄司も直美も今は桃子さんとは疎遠になっている。
大学を中退したとき庄司は「かあさん、もうおれにのしかからないでくれ」と言って家を出る時の最後の言葉を忘れられないでいる。
直美は直美で兄さんばっかりとの思いもあるし、服も直美の好みを理解せずかあさんの好みを押しつけられたとずいぶん後で聞かされ愕然とした。
しかし直美が嫌ったフリフリの飾りのついた服は桃子さんが子供の頃母親が決して着せてくれなかった憧れの服なのだ。
その夢を娘に押しつけていたことに気が付く。

一旦は仲直りの兆しも見えかけたころ直美は自分の息子の才能を伸ばしてやりたいので絵画教室に通う費用を用立てて欲しいと言うが桃子さんはお金が惜しいからではないが返事に詰まった。直子は「兄さんばっかり」と言って電話が途切れる。
直美が行ってしまうと桃子さんはうなだれそうになるが自分を励ますもう一人の自分がいる。前を見る。
そして冷蔵庫の缶ビールを飲むのだった。

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