――父の考えに従おう――
高見の結論はそこへ落ち着く。
決定は人間が選ぶのだ。
ギリシャ旅行に参加した事、旅の途中でクレタ島よりも赤い夕日が美しいサントリニを選んだのも自身の決定によるものだ。
しかし桜の頃には彼にはやはり不吉な夢か現かわからない不気味な兆候が現れる。
まるで不二草がみた兆候と同じような・・・
若い女性が電話ボックスで電話をしている。机の引き出しから尖ったナイフを取り出す・・・という様なまるで不二草の精神が生きているような。
ふとテレビに目をやるとジャイアンツが負けたプロ野球の結果を報じている。そして愉快になる。
妻の房子が明るく話しかける。
「どうしたの?いつも真っ暗のまま、食べない?またタイ焼きを買ってきたの。尻尾まであんこが入っているのよ」
陽気な声だ。
――もう何も悩むまい――
父がすでに決断を下した事だから。人間が選ぶ事だから
高見にも父にもアルクメールと呼ぶべき妻がいるのだ。
房子は涼やかな笑顔を返した。
この作品の書き出しと完結部分に不二草の見た不気味な兆候が数ページにわたって続く。
ギリシャ神話を軸に、自分の出生の秘密を探りながらも神の領域の遺伝子や生物学的な要素よりも人間の決断によりゆるぎない親子関係が構築されるという私にとってかなり難解な作品でした。
そのため本書の紹介も作品の本質から少し方向違いな個所もあるかも知れないことをお許しいただきたいと思います。
しかし、読後いつまでも心に重く残るかと思っていたのが妻の房子の明るい存在が中和剤となってかなりハッピーな気持ちで読み終えました。
長々とお付き合いありがとうございました。
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