いよいよ今日は決行、夜が明けぬうち山に入る。乃治平と今生の別れを惜しむ。
前を武一、木米、そして騎市と続く。
暗かった山の闇にようやく空が白み始めた。武一だけは
見送った後同じ道を再び戻らなければならない。その為目印に赤い布を括りつけておく。その布と知恵は衛吉が用意してくれたものであった。
膨大な山中に目印を付ける作業や長年務めた経験から山にも詳しい足軽の衛吉が多いに助けてくれた。
衛吉の助けがなければ山越えは到底無理であった。
その衛吉も同行したいと申し出てくれたが危険に晒すことはできないので固辞したのであった。
道中木米が足を滑らせたのを縄で引きあげる。山の天気は変わりやすく雪以上に怖い風が吹くまえに最大の難所を越えておきたい。
疲れの色が顔に出る。
上り下りや、又岩場や谷を越える。きつい傾斜を越え複雑な行程を行く。衛吉でなければこの道筋を見出せない。
やっと破れ目の柵が見えた時の喜び。
柵の壊れは穴熊が地中に開けた巣穴のせいであった。
不意に柵の向こう側から大きな音と共に笹の葉が大きく揺れる。見つかったかと身構えるもそれは大きな雌の猪であった。こちらに向かってくるかと思ったが急に向きを変えほっと胸をなでおろす。
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